FC2ブログ

まどろみさん 2nd その2


杉並区にも冬が来た。

私はこたつに首までもぐり、ジェットはこたつの上から私を見下し、もう2時間ほど見つめ合っていた。

ケヤキは「しばらくいません」と置き手紙をして、一ヶ月ほと前からいなくなっていた。
昨日の夜は冷え込んで少し雪が散らついたようだった。

「まどろみさんいるかね」と、隣に住むイナナキさんが玄関の所でイナナいた。
「いますよ。ええ、いますとも。」と私は言った。
「ビッグニュース大ニュース。」
とイナナキながら、彼は大股に部屋に進入してきた。
ジェットの目が少し光ったので、私は慌てて「だめだよジェット、喉元を噛みきっちゃ。」と言った。
それを聞いたイナナキさんは、ジェットの恐ろしさを知っているので
「ヒヒーン。」と本格的にイナナいて玄関口まで駆け戻った。
私はジェットの額を人差し指で掻いてあげながらイナナキさんに
「何ですか大ニュースってのは。」とたずねた。
イナナキさんは、まだ恐怖のためか、ヒヒンヒヒンとむせながら
「と、とにかく今夜七時に『おっちゃんの店』に来て下さい。いい話なんですから。」
とイナナいて逃げ帰っていった。

私は何だか分からないけどひとつ行ってみようかと思い、
サザエさんを見終わってからマフラーを顔中グルグルに巻いて、
おっちゃんの店へと歩いた。

店に着くと常連のおっさん達の姿は見えず、着飾った男女でいっぱいだった。
マスターのおっちゃんは妙な三角帽をかぶって困った顔でグラスを並べていた。
「何なのこれ」と私がおっちゃんにたずねると
横から「遅いよまどろみさん。」とイナナキさんがしゃしゃり出た。
イナナキさんはハデなスーツに三角帽、しかも何故かネズミの付けっパナを鼻に付けていた。
私はバカにされたかと思ったので彼に殴りかかったが、彼は落ち着いてよけながら
「パーティーだよ。お見合パーティー。」と秘密めいた口調で私に告げた。
「お見合?」
「うん。町内会長の息子が主催でね、この町内の一人者のために女性を集めてくれたんだよぉ。」

私は改めて店内を見回した。
どうやら男女が12人ずつぐらいいるようだった。
私が知っている顔は毒月ラーメンを経営しているどくづきさんと、たまにおっちゃんの店で見かけるわななきさんぐらいで、女の人達はみな見たことない人ばかりだった。

その時、なぜか殿様のかっこをした男がマイクを握り叫んだ。
「者共静まれい。」
我々がハッとしてしまうと彼は続けた。
「わしは今日の司会を頼まれた小川興業の宮田じゃ。プロ中のプロ司会じゃ。
どすんとわしに任せてくれい。まずは主催者のとどろきクンのあいさつじゃ。」
宮田はそう言って町内会長の息子にマイクを渡した。

とどろきクンは学生らしいんだけど小太りでフケ顔だった。
そして自分が大学でかなりモテている事、だからみんなにも女性達を紹介してやろうと思った事、
卒業したら町内会長の地位につこうと思ってる事などをダラダラと言った後
「とにかくハッピーにやろうぜぇ。」などとすっとん狂な声をとどろかせた。
宮田はうんうん頷きながらマイクを取り戻すと叫んだ。
「いよいよパーティーの始まりじゃ。皆の者、出会え!出会え!」
イナナキさんは待ってましたとばかりに
「出会う!出会う!」
とイナナいて店の奥の方に突入して行った。

私はどうして良いやら分からずカウンターに座った。
おっちゃんは、焼き鳥の串に銀色のホイルを巻き付けていた。
「パーティーだからさぁ。」とおっちゃんは恥ずかしそうに言った。
アルバイトのグリコちゃんは元気良くビールケースを担ぎ上げながら
「まどろみさんもがんばがんば。」と言って去っていった。
『がんばがんばと言われてもなぁ。』と私が途方に暮れてまどろみかけていると
すぐ背後で「コラー貴様!出会え!出会うのじゃ!」
と宮田の怒鳴り声がした。

私はびっくりして振り返った。
宮田は汗びっしょりだった。
そして片手にマイク、もう片手に焼き鳥を三本握りしめていた。
私は宮田の鬼のような形相にたじたじになって
「ごめんなさいごめんなさい」とただ泣きじゃくった。
すると宮田は急に深呼吸すると仏の様な顔つきになって
「いいんだよ。さぁ涙なんかとはサヨナラだ。元気良く出会っておいで。人はみな出会うべきなんだ。」
と優しく語り、私の肩をたたいた。
なんだか感動してしまった私は
「ありがとうございます宮田。行って来ます宮田。」
と言ってフラフラと店の奥へと向かった。

男も女もみな入れ替わり立ち替わり出会いまくっていた。
私はとにかく前に立ちふさがった女の人に言った。
「こんばんは」女の人は振り向いた。
長い髪で細くて長い首だった。
「どーも」と言って女の人は私を見て「マフラー取ったら。」と言った。
私は慌てて顔中にグルグル巻いてあったマフラーをはずして
「結構長いんだ。このマフラー。」と言った。
女の人は私の顔をちらっと見て「お仕事は?」とたずねた。
「生活です。」と私は答えた。
女の人は黙っていた。
私は「結構あったかいんだこのマフラー。」とか
「結構黄色いんだこのマフラー。」とか話し続けたが女の人は何も言わず、おっちゃんが作ったでたらめのカクテルを飲んで
「それじゃ。」ととどろきクンとその仲間達の方へと行ってしまった。

私がスゴスゴと店の出入口近くのカウンターへ戻ると、
毒月さんとわななきさんが寂しげに飲んでいた。
「まったく女達はみんなとどろきの奴らが仕切ってて話しにならん。やってられんぞ。」
と毒月さんが毒づくと
わななきさんは「僕じゃ年収が足りないらしいんです。あと身長も。」
と行って頭を抱えた。
その肩は見事なほど小刻みにわなないていた。

私が何とも言えずに立っていると、相撲の行司のかっこをした小男がやってきて
「のこったのこった。こちらさん達のこったのこった。」と叫び始めた。
どうやら宮田の助手らしかった。
毒月さんは「なめんなこの野郎!ダシ取ってやる。」
と毒づいて小男につかみかかり、
わななきさんは「どーせ僕は残りものさ!残りものさ!」と
ますます激しくわななき始めた。
店の奥の方から「いよっとどろきさん最高!」といななく声が聞こえてきた。
私は「もうどうでもいいです。もう出会わなくてもいいんです。」
と宮田に叫んで外に出た。

今夜も雪になりそうだった。
顔中にマフラーを巻き付けて私は帰り道をポツポツ歩いた。
アパートの下から見上げると私の部屋の電気がついていた。
私はドキドキしてしまい「ワー」と言いながら古い階段を駆け上がって部屋のドアを開けた。

コタツから首だけ出したケヤキの顔が見えた。
そしてコタツからしっぽだけ出しているジェットが見えた。
ケヤキはコタツから這い出してきて私の前に来て
「今夜はカレーですよ。」と言った。

私はなんだか何も言えなかった。
ケヤキはちょっと笑って僕のマフラーのはじを持つといきおいよく引っぱった。
私は「ワー」と言いながらコマの様に回った。
回りながら『僕はもう出会ってたみたいだよ宮田。僕はもう出会ってたんだよ宮田』
とそう思った・・・・。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

マキノゲン

Author:マキノゲン
忘れた頃に更新っすよ。
忘れた頃に思い出してくださいな。

裸眼音源
Snaps
音源とグッズ通販
LIVE情報
【ザ・カスタネッツ】
【東京】イベント
下北沢 CLUBQue
2017/10/27(金)
-------------------
【裸眼】→牧野のソロ活動
●裸眼2.0(マキノゲンwith鈴木淳)
【東京】
新宿red cloth
2017/10/?

【東京】
下北沢 ?
2017/10/?

最新記事
カテゴリ
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

アーカイブ

検索フォーム
RSSリンクの表示