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まどろみさん 2nd その4


杉並区にも夏が来た。

私はうすめにいれたカルピスをちびちびのみながら高校野球のハッスルプレーを見ていた。
いいプレーにはすかさず「ナイスハッスル!」とさけんだ。

「しかし『ハッスル』って言葉はナゾめいてるけど口に出すと気持ちがいい言葉だねぇ。」
私はベランダのケヤキに言った。
ケヤキは大きなブリキのジョーロでジェットに水をかけてやっていた。
私はうすめのカルピスのグラスをもってベランダに出た。
セミたちが忙しくなきじゃくっている。

『こんな都会のコンクリートの町のどこからセミが出てくるんだろう。』
このアパートの前のほそう道路のアスファルトの裏側にもびっしりとセミの幼虫がはりついてもがいてるのかも知れない。
いやそうにちがいない。
「そうだ!きっとそうなんだ!」
私は一気に錯乱し、うすめのカルピスをはきちらしながら
「そうだ!そうなのだ!」と叫び踊った。
失神寸前の私の頭にケヤキがジョーロで水をかけてくれた。
私はようやく我にかえった。

さけびすぎてしまい、何が「そうだ!」なのかは忘れてしまっていた。
ゼエゼエと肩で息をしてる私に、ケヤキが「ナイスハッスル。」と言った。
「すまない。ハッスルしすぎてしまいました。」
私は反省し「この暑さがいけないんだ。」とセキニンをテンカした。

「確かに今日は暑いですね。」とケヤキは言って空を見上げた。
午後2時の夏の太陽はワッショイワッショイといいながら全力で燃えているように見えた。
「海だ。海へ行くべきだ。我々は断固大至急海へ行くべきなのだ。」
私はさけび部屋にかけもどり、学生時代の海水パンツをひっぱりだした。
ケヤキとジェットも私の勢いにおされたのか部屋にもどりそれぞれ仕度をはじめた。
「イナナキさんの車を借りて行こうぜ。」
私は若者っぽくうかれながらアパートの裏に止めてあるイナナキさんの車に忍び寄った。

イナナキさんはいなかに里帰りしていた。
車はカロゴンだった。
私はカロゴンのCMの男の人に好感をもっていた。
顔色が悪いところが気に入ったのだった。

私はカロゴンのマドがらすに石で穴をあけ、ドアのかぎをはずし、
運転席にもぐりこみハンドルの裏の配線を直結してエンジンをかけた。
TVで見た「ダーティハリー」で覚えたワザだった。
ケヤキとジェットが荷物をもっておりてきた。
ケヤキはふかみどり色のワンピースを着て首には早くも大きな赤いうきわをかけていた。
『ケヤキはうきわも似合うんだなぁ。』と私は思い、なぜか少し照れた。

私たちはカロゴンに乗り込み出発した。
カンパチからダイサンにのってヨコヨコでズシへ。
私はスピード感が大きらいなので時速40kmぐらいでゆっくりと走った。
カーステレオからはミュートビートの「マーチ」を流した。
私がトランペットのメロディを、
ケヤキがトロンボーンのメロディをハモリながら口ずさんだ。

ケヤキが水筒の中に作ってきてくれたうすめのカルピスを飲みながら
カロゴンは海へと走った。
ジェットだけが車酔いに苦しんでいた。
ジェットにも弱点があったのだ。
後部座席でぐったりとのびて時々苦しげに「カポッ」「カポッ」といろんな物をはきだしていた。

午後5時をすぎた頃、ついに海についた。
あんなに元気だった太陽もさすがに疲れたのか、眠たげに沈みかかっている。
砂浜にはオイルまみれの男女がごろごろところがってテカテカと光っている。
夕凪の海も薄くオイルがはっているようで奇妙な七色に輝いていた。
「なんだか妙な海ですね。」とケヤキがいい、
私も「なんだかなまぬるそうな海だねぇ。」と言った。

しかたなく海ぞいにカロゴンを走らせ、ようやく人のいない岩場についた。
そこにある海はしっかりと冷たそうな色をしていた。
私はケヤキに目をつぶっていてもらい、大急ぎで服をぬぎ、
十年ぐらい使っていなかったため干からびてしまった海パンを装着し、
「海が好きだぁー。」とさけびながら岩場を飛び歩きざぶんと飛び込んだ。
水の冷たさに心臓がちぢこまる感じを楽しみながら私はジタバタと泳いだ。
私の古い海パンも忘れかけていた水の感触に感激して、本来のやわらかなフィット感をとりもどしていった。
ケヤキが赤いうきわの上にジェットをのせてシズシズと泳いできた。
ケヤキはふかみどりのワンピースのままだった。
「水着は、なかったの?」と私が聞くと
ケヤキは少しはずかしそうに「ちゃんと着がえましたよ。」と言った。
よく見るとたしかに綿のワンピースから化学繊維のワンピースに変わっていた。

私たちは赤いうきわにみんなでつかまってプカプカと漂った。
沖の彼方に太陽はしずみかかり、
最後の光が海もジェットもケヤキもみんな金色にかがやかせた。

私は自分も金色にかがやいているのかどうか不安になった。
私だけが黒く沈み込んでいるかも知れない。
私はそう考えて早くも少しベソをかいたが、勇気を出してケヤキにたずねた。
「僕は今、何色だろう?」
ケヤキはうきわにアゴをのせて目をとじていたが、ゆっくりと目をひらいて私を見た。
そして少し笑って「金色に光ってみえますよ。」と言った。
私は許されたような不思議な安心感につつまれてジーンとした。

太陽はちゃんと同じ光で私を照らしてくれていた。
そのことに初めて気がついた気がした。
私たちはプカプカとただよいながらじっと太陽がしずむのを見ていた。
何もいわなかった。
ふさわしい言葉が見つからなかった。

日が沈むと夏の夜が空にあらわれた。
半月とさそり座の星の白い光が海を照らした。
私たちは「ロッキーごっこ」をして遊んだ。
ただ単にオニになった人が「エイドリアーン」とさけびながら追いかける遊びだが、おもしろかった。
とくにケヤキがオニの時、へんな低い作り声で「エイドリアーン」といいながら
赤いうきわから首だけだして追いかけてくると、おもしろいようなおそろしさで、
私はジタバタと必死で逃げ泳いだ。

遊びつかれて岩場にあがり、その辺に落ちてる木を集めて焚き火をした。
炎は「待ってました。」といいたげにチロチロと燃えて私たちの冷えた体をあたためた。
水にぬれてびっくりするぐらい小さくなってしまったジェットは、
はずかしそうに少し離れた岩の上で自慢の毛並みを取り戻そうと
必死に毛づくろいをしていた。

ケヤキはじっと炎をみつめていた。
まるで何かを思い出そうとしているような強い目の色だった。
私もじっと炎をみつめた。
決して同じ形をしない炎は、あらゆる全ての答えのように堂々ともえていた。

いくつもの記憶がよみがえり、瞬いたり混ざり合ったり、
そして現在とくっついたり重なり合ったり。
きっとケヤキも同じように炎の中の色々なものをみているのだろう。

私は私と知り合う前のケヤキについては何も知らなかった。
ケヤキは何も話さなかったし私も何も聞こうとは思わなかった。
ごく自然にケヤキは存在していた。
でも今、炎をみつめてるケヤキはどこかもろく見えた。
私は「ケヤキ」とつぶやいた。
ケヤキは私の方を見た。
茶色のくしゃ髪に半分かくれたケヤキの黒眼は何かを言ってるように見えた。
「こっちにおいでよ。」と私はいった。
ケヤキはゆっくり立ち上がってきて私の左よこにすわった。
私はドキドキとして何か気のきいた言葉を言わなきゃと思ったが何も思いつかなかった。

その時突然激しいかゆみが私の両腕をおそった。
おどろいて両腕を火にかざしてみると何十ヶ所も蚊にくわれてまあるくはれていた。
私は思わず「なんじゃこりゃ」とさけんだ。
ケヤキはクスッと笑って「かいてあげますよ。」といった。
私はポリポリとケヤキに腕をかいてもらいながら、嬉しいような、情けないような気分で
夜空を見上げた。
アンタレスの下あたりを人工衛星が横切って飛んでいた。
私は激しいかゆみに混乱した頭の中でなぜか『夏がとんでいくなぁ。また夏がとんでいくなぁ』
と呟いていた・・・・・・。

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